脳卒中センター

センター長ご挨拶

森健太郎医師

総合東京病院を含む南東北病院グループの理念は「すべては患者さんのために」であります。その院是に従い当センターでも24時間365日脳卒中の治療にあたっております。

脳卒中は死亡原因では第4位ですが、臓器別の死亡は第1位であり、寝たきりの原因の第1位でもあり(※)極めて重大な病気です。脳卒中には脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などがあります。脳卒中は突然に発症し、重症の場合はそのまま死亡されたり、あるいは重度の後遺症が残る病気です。脳卒中を発症したら、可能な限り早期の専門的治療を受ける必要があります。

当センターでは、救急隊から脳卒中が疑われる患者さんはホットラインで、患者情報を救急車が病院に到着する前に受ける体制を整えています。すなわち患者さんが病院に到着される前から、直ぐに検査や治療を開始できるように準備が始まります。日本脳卒中学会認定脳卒中専門医、日本脳神経血管内治療学会認定脳血管内治療専門医、日本脳卒中の外科学会認定技術指導医が連携して迅速で高度な治療ができるようチーム医療を行っています。

総合東京病院 脳卒中センター長   森 健太郎
※…平成26年人口動態統計および平成25年国民生活基礎調査のデータに拠る

総合東京病院は一次脳卒中センター(PSC)コア施設です

2020年から当センターは日本脳卒中学会より一次脳卒中センター(PSC:Primary Stroke Center)の認定を受けております。

さらに、急性期脳梗塞治療の中で、tPA静脈内投与による血栓溶解療法に加えてカテーテルによる機械的血栓回収療法が24時間365日いつでも行える施設として、2022年4月より日本脳卒中学会からPSCコア施設を認定されております。最新鋭の診断および治療装置に加え、各種専門医による脳卒中の内科的治療から外科的治療まであらゆる脳卒中医療が可能となるセンターを構築いたしました。地域の皆さんが、脳卒中に関してはいつでも安心して医療を受けることができる、地域医療の中核(コア施設)となる脳卒中センターとして活動してまいります。

脳卒中センターについて

当センターでは一次脳卒中センター(PSC: Primary Stroke Center)コア施設として日本脳卒中学会指導医2名、日本脳卒中学会専門医2名、日本脳神経血管内治療指導医1名、日本脳神経血管内治療専門医2名、日本脳卒中の外科学会技術指導医1名が常勤として脳卒中の専門的治療を行っていますが、そのほか10名の日本脳神経外科学会認定脳神経外科専門医がそのサポートを行っています。

脳卒中治療を専門とする医師が中心となり、24時間365日いつでも、急性期脳梗塞に対するtPA静脈内投与による血栓溶解療法や機械的血栓回収療法が行えます。また脳出血に対しては開頭血腫除去がいつでも可能です。くも膜下出血に対しても脳神経血管内治療による脳動脈瘤のコイル塞栓術や開頭クリッピング術による治療を、それぞれの専門医が一例ずつ検討し治療を行っています。

主な診断装置としてCT3台、MR3台、また脳神経血管内治療と脳卒中の外科手術が同時にできるHybrid手術室があり、いかなる脳卒中に対しても迅速な診断と治療を行うことができます。

また、脳卒中の多くは高血圧や心房細動などの不整脈や解離性大動脈瘤といった循環器疾患(心臓病)が原因となります。脳卒中治療を行うには循環器内科と心臓血管外科の協力が必要です。このような脳卒中に合併した心臓病に対して当センターではハイブリッド手術室を備え、24時間365日、循環器内科あるいは心臓血管外科との連携で対応しております。

MRI診断装置

MRI診断装置

総合東京病院ハイブリッド手術室

Hybrid手術室

脳卒中の治療実績

2021年度の当センターでの脳卒中治療件数は571例でした。脳梗塞の患者さんが全体の4分の3を示しており、これは日本全国のデータと同じでした。

総合東京病院の脳卒中治療実績2021年度

当センターにおける脳卒中治療実績(2021年度)


脳梗塞  (総数 409例) 2021年度
内科的治療 338
tPA治療 8
血栓回収術 35
tPAと血栓回収術 8
バイパス術 3
減圧開頭術 6

脳出血  (総数 104例) 2021年度
開頭血腫除去術 15

くも膜下出血  (総数 22例) 2021年度
開頭クリッピング術 15
コイル塞栓術 5

診療内容と特色

脳卒中リハビリテーション

脳卒中リハビリテーションの様子

当センターの特徴は脳卒中の治療だけではなく、入院翌日から急性期リハビリテーションが行われることです。少しでも脳卒中の後遺症を残さないために、休日を含めて365日のリハビリテーションを実施します。当院は2022年現在、理学療法士159名、作業療法士27名、言語聴覚士17名が脳卒中急性期と回復期のリハビリテーションにあたっており、日本脳卒中学会認定脳卒中専門医、リハビリテーション科医師との連携の下、一人一人の患者さんの病態や病状についてリハビリテーションの計画を立てて治療にあたります。

急性期治療が終わった患者さんでなおもリハビリテーションが必要な方は、脳卒中専門の回復期リハビリテーションセンターが併設されており、転院することなくシームレスなリハビリテーションを受けることが可能です。

脳卒中相談窓口

当院は一次脳卒中センター(PSC)コア施設として、当院に入院歴のある患者さんとそのご家族に対して医療および介護に関する適切な情報提供等を行う「脳卒中相談窓口」を設置しております。

脳卒中に関する様々な相談(後遺症について、経済的な不安、転院や退院後の生活、治療・予防に関してなど)をお受けし、退院後の生活設計のお手伝いをさせていただきます。脳卒中療養相談士が中心に対応しますので、ご希望の方は患者相談窓口までお問い合わせください。


脳卒中とはどんな病気か?またその治療法とは

脳卒中は国民病として昔は死亡原因の第1位でしたが、高血圧などの治療によって現在は死亡原因の第4位となっています。ですが、寝たきりとなる原因の第1位でもあります(※)。つまり、死亡することもあるが、手足の麻痺や言語障害などの日常生活に支障を来す後遺症を残すこともある病気です。

脳卒中は、ある日突然に手足が動かなくなったり言葉が出なくなったり、激しい頭痛などが起きます。この「突然」というのが脳卒中の特徴です。

脳卒中のタイプについて

脳卒中には、大きく分けて脳血管がつまるタイプ(虚血性)脳血管が破れて出血するタイプ(出血性)の2つがあります。以前の日本では出血性が多かったのですが、食生活の変化などで現在は虚血性脳卒中、すなわち脳梗塞が全体の4分の3を占めています。

出血性脳卒中には高血圧などによる脳出血と、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血があります。

脳卒中の種類

脳梗塞

脳梗塞のMR画像

脳梗塞のMR画像(画像の白い部分)

脳梗塞を来すと、手足や顔面の麻痺や言語障害などが突然に起こります。脳梗塞は大きく分けて3種類があります。

脳梗塞の3つの病型

心原性塞栓症

心原性塞栓症は、心房細動などの不整脈や心臓弁膜症によって心臓に出来た「塞栓子」と呼ばれる血の塊が脳の血管に飛んで血管を塞いでしまう脳梗塞で、重症化しやすいのが特徴です。

当院では積極的にカテーテルを用いた機械的血栓回収術を行って、24時間365日治療を行っております。

アテローム血栓性脳梗塞

アテローム血栓性脳梗塞とは、脳や首にある太い動脈が高血圧や糖尿病で次第に細くなって脳梗塞を来すものです。

当院ではtPAという血栓を溶かす薬を静脈内投与する血栓溶解治療や機械的血栓回収術を行って治療しております。

ラクナ梗塞

ラクナ梗塞とは、高血圧が原因で脳の細い動脈が閉鎖しておこる脳梗塞です。

当院ではtPAによる血栓溶解治療や抗血小板剤などを使って治療しております。

脳梗塞の代表的な治療法

急性期脳梗塞に対する緊急治療の流れ

脳梗塞の治療法の代表である、tPAによる血栓溶解治療とカテーテルを用いた機械的血栓回収術について解説します。

まず発症後4.5時間以内でtPA治療の適応のある患者さんは、tPAという血栓溶解薬を静脈注射して治療します。しかしながら、発症から4.5時間以上~8時間以内の患者さん、tPA治療では効果が不十分な患者さんには、カテーテルという細い管を詰まってしまった脳血管に誘導し、ステント型血栓回収器具や血栓吸引法を用いて閉塞した脳血管の再開通を行います。

血栓内治療による機械的血栓回収術
脳梗塞に対する血栓回収術の症例画像

血栓回収術の実際の画像

A:ステント留置前、B:マイクロカテーテルの導入、C:実際に回収した血栓
D:再開通後の脳血管、E:脳梗塞は血栓回収によって最小限に留まった(白い部分)

手術動画 機械的血栓回収

アテローム血栓性脳梗塞の治療

アテローム血栓性脳梗塞の原因の1つである頚部内頸動脈狭窄症に対しては、CEAという手術による血栓内膜除去術と、血管内治療であるカテーテルとステントを用いたCASという方法で治療を行っています。

手術動画 CEA(頸動脈血栓内膜剥離術)

手術動画 CAS(頸動脈ステント留置術)

脳出血

脳出血の多くは、高血圧による脳内血管の破綻によって脳内に血腫を生じる病気です。突然に半身の麻痺や言語障害を来します。もし血腫が大きく生命の危険がある場合は、開頭術などによる血腫除去術を行います。

症例画像 開頭血腫除去前と後

脳出血に対する開頭血腫除去術の症例画像(術前)

術前

脳出血に対する開頭血腫除去術の症例画像(術後)

術後

被核部出血では血腫量が31cc以上で、圧迫所見が高度のものは開頭血腫除去術の適応となるが、術後に再出血のリスクがある。

くも膜下出血

くも膜下出血は脳動脈瘤という血管の「こぶ」が破裂して出血する病気です。突然の激しい頭痛で発症し、重症例では突然死することもあります。まずは動脈瘤の再出血を防止するために、破裂動脈瘤を閉塞する必要があります。

くも膜下出血直後のCT画像

くも膜下出血直後のCT画像

くも膜下出血の治療法として、開頭手術を行って動脈瘤に対して直接に金属製のクリップで閉塞する開頭クリッピング術と、血管内治療によりカテーテルを動脈瘤に誘導し、動脈瘤の内部からコイルという金属の糸で閉塞するコイル塞栓術とがあります。

当センターでは1例ずつ、クリップの専門の医師とコイルの専門の医師が協議して患者さんにあった治療法を選択しています。

実際の手術で見られた脳動脈瘤

実際の手術で見られた脳動脈瘤

症例画像 コイル塞栓術

くも膜下出血に対するコイル塞栓術の症例画像(術前)

術前

くも膜下出血に対するコイル塞栓術の症例画像(術後)

術後

破裂脳動脈瘤では再出血の予防が極めて重要であり、開頭クリッピング術あるいはコイル塞栓術が必要である。両者とも術中破裂などのリスクがある。

手術動画 開頭クリッピング術

難治性動脈瘤に対するバイパス術、鍵穴手術

当院では、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤が破裂する前に脳ドックなどで見つかった場合にはコイル塞栓術やクリッピング術による治療の他、難治性の動脈瘤はバイパス術などを併用して治療したり、小さなものは鍵穴手術で治療しております。お困りの方はお気軽にご相談ください。

症例画像 巨大脳動脈瘤とバイパスを用いた治療

難治性動脈瘤に対するバイパス術の症例画像

A:ステント留置前、B:再開通後の脳血管


難治性動脈瘤に対するバイパス術後の3次元CTA画像

術後の3次元CTA画像
動脈瘤は消失し、バイパス血管によって脳は灌流されている

手術動画 鍵穴手術による脳動脈瘤クリッピング術