意外と知らないガンの基礎知識「がん・癌・ガン」 ~使い分け方を知ろう~

「がん」と「癌」と「ガン」の違いって?
患者さんのためのQ&A

ひらがなの「がん」、カタカナの「ガン」、漢字の「癌」。漢字だけでなくひらがな、カタカナで表記する病気って珍しいですよね。
「がん」「ガン」「癌」の表記の使い分け方ってあるのでしょうか?
今回は、意外と知らないガンの基礎知識を皆さんにご紹介したいと思います。

実は、これらの表記は使い分けがなされています。からだの外とつながっている臓器にできたものを「癌」、すべての悪性腫瘍を総称して「がん」または「ガン」と表記するのです。


日常でよく見かける「がん」の表記

日本人の2人に1人がガンになる時代となり、ガンはとても身近な病気になりました。日常生活を送っていても、テレビCMでがん保険について紹介されたり、自治体からがん検診の受診を促す手紙が送られてきたり、「がん」または「ガン」の表記をよく見かけますが、漢字の「癌」はあまり見かけませんよね。漢字だと現実味が高まったり、重苦しい感じがしたりして、使うのをためらってしまう人もいるかもしれません。ひらがなとカタカナ、漢字、これらは何か意味があって使い分けされているのでしょうか?

実は、上皮組織かそうでないかで使い分ける!

みなさん、上皮組織(じょうひそしき)という私たちのからだを覆っている組織をご存知でしょうか?言葉の使い分け方を知るうえで、上皮組織について知っておくことが重要です。

上皮組織とは、からだの表面や体内の臓器を覆っている細胞などを指し、からだの外部(鼻、口、肛門、尿道など)とつながっていることが特徴です。

体内の臓器といえば食道、胃、腸などを連想すると思います。口から入った食べ物は食道、胃、腸を通りながら消化されていきます。そして栄養として吸収されなかったものなどが便として肛門から排泄されます。この一連の過程で通る食道、胃、腸などの臓器は、口と肛門につながっていることから上皮組織に含まれるのです。

それでは、からだの奥の方にある肝臓やすい臓はどうでしょうか?肝臓は胆管を通じて十二指腸とつながっています。すい臓もすい管で十二指腸とつながっています。十二指腸から小腸、大腸へ、そして肛門に行きつきます。つまり、肝臓もすい臓も外部とつながっているので上皮組織に含まれるということになります。

これら、上皮組織がガン化したものを漢字の「癌」と表記します。乳がんも乳管を介して外界とつながっているので、正しく表記するときは漢字の「癌」になります。

(上皮組織がガン化したものの例…皮膚癌、肝臓癌、膵臓癌、子宮癌、膀胱癌、食道癌、胃癌、大腸癌など)

上皮組織でないガンは何と表記する?

一方、からだの外とつながっていない骨や筋肉などがガン化したものは肉腫と呼びます。肉腫には骨肉腫、平滑筋肉腫などがあります。主に若年層に起こりますが、癌に比べるとかなり頻度は低いものです。

上皮組織や筋肉、骨の他に、血液細胞もガン化します。血液中には白血球やリンパ球、赤血球、血小板などの血液細胞が流れています。これらの血液細胞が骨髄でつくられる過程でガンになります。白血球が悪性化したものを白血病、リンパ球が悪性化したものをリンパ腫と表現します。

上皮組織にできる癌や、肉腫、白血病、リンパ腫などすべての悪性腫瘍を表現するときに、ひらがなの「がん」またはカタカナの「ガン」で表記します。「がん保険」や「がん検診」はさまざまな悪性腫瘍を対象としていることから、ひらがな、またはカタカナで表記されます。「がん研究センター」も、上皮組織の癌だけでなく肉腫、白血病やリンパ腫の診療を行うため「がん」で表記します。


意外と知らないガンの基礎知識と題して「がん」「ガン」「癌」の使い分け方についてご紹介しました。「がん」「ガン」はさまざまな悪性腫瘍を総称するときに使うのに対して、「癌」はより細かく分類するときに使っているのです。みなさん、ご存知でしたか?


監修

総合東京病院 副院長・外科部長

羽生 信義

外科・消化器外科  乳腺外来

羽生信義医師
公開日:2020年10月7日 |最終更新日: |カテゴリ:医療コラム
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