コラム3:睡眠とホルモン

睡眠時無呼吸症候群の男女比

睡眠無呼吸症候群{SAS}の男女比は9倍男性が多く、特に中高年、いわゆる働き盛りの男性に多いのですが、この年代はまさに生活習慣病やメタボリックシンドロームの適齢期であり、SASがこれらに一役も二役も係わっていることがわかってきたのです。

睡眠と男性ホルモンは関係が深く、男性ホルモンが低下すると睡眠障害になり、更には朝の活気がなくなります。我々の睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠がありますが、レム睡眠は浅い眠りで身体は深く眠っているのに脳が活発に動いている状態であり、急速眼球運動を伴う睡眠のことです。よく夢を見る時であり、一晩の睡眠で4-5回のレム睡眠が観測されます。そのレム睡眠は身体の基礎機能を調整している副交換神経が活性化して腸が動くのですが、男性自身も腸の親戚の内臓の一部として同様に反応し、無自覚の「夜間睡眠時エレクト」が起こります。これがいわゆる「朝のエレクト」で、性的に興奮をしたときの自覚的エレクトとは別のメカニズムであり、朝のエレクトは「男の生理」といわれ、健康のバロメーターでもあります。また性欲の低下やインポテンツもSASと関連していることがあるとされています。

どうも最近、睡眠障害があり朝のエレクトがなくなってきた男性は男性ホルモンが低下していて、いびきをかくようでしたらSASかもしれません。ぜひ検査をしましょう。

みちのく遅春

『みちのく遅春』 半澤 満 画伯作
(所蔵:総合東京病院)

女性・小児の睡眠時無呼吸症候群

女性の場合は男性より発症が少ないと言われていますが、それは女性ホルモンの一種であるプロゲステロンに呼吸中枢を刺激する働きがあるからです。しかし閉経後の女性はプロゲステロンの分泌が少なくなり無呼吸が起きやすくなるので注意が必要です。またSASの症状に倦怠感、頭痛、不眠、寝汗、などがありますが、更年期障害による症状に似ていることから、SASを見逃しやすく重篤化してしまうことがあります。

小児のSASは近年増加し、特に肥満児が増加しているからと言われています。さて成長ホルモンは名前のごとく骨の発達を促進し成長に大きな役割を果たしています。「眠る子は良く育つ」と言われますが、成長ホルモンは夜間睡眠中に パルス状に多く分泌され、睡眠中の身体の修復や脂肪燃焼の促進効果が知られています。

いずれにしても男女小児を問わずホルモン分泌異常の疑いがある場合はSASを疑い、簡易検査を行いましょう。

名作に登場するSAS

ちなみにSAS と関連した物語でフランス人の劇作家ジロードの戯曲「オンディ-ヌ」があります。水の精オンディーヌがSASにかかっている若者ハンスを愛するも、睡眠中に死んでしまうという劇です。日本では劇団「四季」にて長く上映されていました。

その他イギリスの作家ディケンズの小説に出てくる太った少年は昼間から終始ウトウトして居眠りしているSASの患者さんです。それに由来した「ピックウィック症候群」という名の病気が内外昨今問わず有名で、突然死を伴う怖い病気です。


文献1:諏訪邦夫 酸素は体になぜ大切か  1990年4月20日 講談社

文献2:熊本悦明 さあ立ち上がれ男たちよ  2016年3月15日 幻冬舎

関連する診療科目はこちら

公開日:2016年12月20日 |最終更新日: |カテゴリ:松岡医師コラム