転移がんの積極的治療について

がんの転移は多くの場合、完全治癒には厳しい状況です。他臓器に多発して転移すると、一つ一つ除去したりする治療は困難で抗がん剤などの全身療法をおこないますが、血液系腫瘍などの一部のがんを除き腫瘍を完全に消滅させることは難しく、また副作用も全身に出現するため積極的な治療はおこなわず症状を軽減する緩和療法のみとなることも多々あります。


しかし、数個までの転移ならば原発巣に対するのと同様に積極的な放射線治療などが有効かもしれないことが解ってきました。2019年にランセットという権威のある医学雑誌に発表された研究では、これまでの医学常識だと積極的な治療をせず緩和療法になる多数の患者さんにおいて、これまでの通常通りの積極的な治療をせず緩和療法をおこなうか、転移に放射線を集中する「定位放射線治療」を追加するか、の2つのグループにくじ引きで割り振って、結果を比較する比較試験を行いました。

その結果、定位放射線治療施行のグループで生存期間が著明に延長しています。転移部位によっては手術による摘出ができる場合もありますが、放射線治療は体のどこにでも施行可能で負担も少ないので、転移に対して理想的な局所療法になります。ただし、十分に腫瘍を制御できる高線量を正確に投与しなければなりません。


標準的治療として勧めるには、今後さらに大規模な実証研究が必要ですが、最近の免疫療法、分子標的薬などの新しい全身療法の進歩に伴い、微小な転移の増大や新たな出現を抑える可能性もあり、転移に対する治療戦略が大きく変わってきています。


この研究は、具体的には4ヶ国10施設において、年齢18歳以上、期待される生存期間が6ヶ月以上、原発巣制御、少数転移(5個以内)の試験に参加希望された方々を、

  1. 定位放射線群 66例
    全ての転移に、SABR(定位放射線治療 3-8分割)を行う
  2. 緩和治療群 33例
    標準的な緩和的放射線治療のみ

と分けて、両群とも標準的全身療法(抗がん剤など)は必要に応じて行いました。このような臨床試験では患者さんの同意のもとに参加していただきますが、くじ引きで治療を選択したあと、患者さんの考え方が変わることもあるので何人かは方針が変わってしまい、このとおりの数で治療したわけではありませんが、その場合も厳密さを求めて最初の意図の通りの振り分けで解析をします。①定位放射線治療群では、②の緩和治療のみの群と比較して、生存期間で比べて①41ヶ月②21ヶ月と大きく改善しています。また、この後の報告になりますが、5年生存率は①42.3%②17.7%とさらに大きく改善しています。


一方、定位放射線治療群では治療に伴うと思われる死亡が3件ありました。今後治療法の改善で減らすことができると思われますが、一般には治療に伴う不利益もあるので実際に行う場合は利点、欠点を十分検討するべきでしょう。


転移がん放射線治療後の生存率グラフ


治療後の生存率(年)
青:通常の方法  赤:定位放射線治療群


参考文献


監修

総合東京病院 放射線治療センター

国枝 悦夫

放射線治療センター  放射線治療セカンドオピニオン外来

国枝悦夫医師
公開日:2020年12月10日 |最終更新日: |カテゴリ:放射線治療コラム, 転移がん