乳がん放射線治療の副作用と予防

放射線治療は切ることもなく、全身に及ぼす副作用もほとんどありません。そのために「躰に優しい治療」といわれます。しかし強力な治療であるわけですから副作用がないわけではなく、適切でないと重大な副作用を生じる可能性もあります。


さて、乳がんの部分切除、あるいは乳房全摘後の放射線治療は乳がんの局所再発を防ぐ上で大変重要ですが、その副作用はどのようなものでしょうか。


まず第一に、診断用のX線撮影も含めて放射線には発がん作用があります。これは少ない線量でも生じることがあるのでよく知られていますが、がんの放射線治療における発がんは成人ではその利点と比べて大変少ないと考えられます。たとえば、海外に行くのに飛行機に乗る、国内旅行でバスに乗ると当然交通事故のリスクがあります。X線撮影も種類、回数などによってもちろん違いますが、大雑把にいえば同程度で利益とリスクで利益が十分あればおこなうことになります。放射線治療においても再発を防ぐ効果と比べると微微たるものといえます。ただし、小児や成長期の方々だと放射線感受性が比較的高く注意が必要です。逆に中年以降だと発がんリスクはほぼ無視できます。

次に、急性反応と言われる放射線治療中に生じる副作用があります。これは日焼けのようなものですが、照射した部分の皮膚が多少赤くなります。この反応は個人差があり若干ヒリヒリするような痛みがある場合もありますが、ほとんど色も変わらない人もいらっしゃいます。いずれにせよ照射終了後、早期に消失します。


照射後しばらく経ってから生じるのが、慢性副作用とか晩期障害とかいわれるものです。乳がんの場合に生じる可能性のある副作用として放射線肺臓炎があります。乳がんの治療では肺もわずかですが照射されるので、その部分がCTなどで見ると白くなります。ただ症状につながる方は治療された方の1〜3%程度といわれていますが、最近の放射線治療の方法ではさらに少なくなって多くの患者さんを治療しても経験することは稀です。


一方で、最近注目されているのは心臓の障害です。心臓に放射線が多量に照射されると多少ですが狭心症や心筋梗塞が増えることがわかっています。この副作用は心臓の位置からして左乳がんの治療時のみに関係します。そこで当院では左乳がんの方にはある工夫をしています。



図:乳がん治療時の深呼気息止め照射の効果
通常呼吸照射

通常呼吸照射:
心臓が照射範囲(色付き部分)に入る(矢印)

深吸気息止照射

深吸気息止照射:
心臓は胸壁より離れて、照射範囲(色付き部分)に入らない



最近の放射線治療装置では大変性能が良くなっており照射する時間が以前に比べて数分の1程度に短くなっているため、乳がんの術後照射の場合に連続する照射は十数秒に過ぎません。そこで左乳がんで心臓が照射される可能性のある方には、大きく息を吸ってもらって息を止めた状態で照射をします。そのようにすると心臓が胸壁から離れ、また横隔膜が足側に移動するために心臓は上下に伸ばされたようになり照射範囲から外れていきます(図)。この方法は「深吸気息止め照射」といわれ、心臓の照射を避ける上で大変効果があります。なお、吸気の状態が良好であることを確認するために赤外線を使った装置を使用して、確実に心臓を避けるようにしています。

従来のやり方でも影響はわずかですが、このような方法により更に改善することができます。乳がんのように概ね予後のよい疾患は、副作用低減ができることは行い、副作用に対してより厳しく対処すべき、と思われます。



監修

総合東京病院 放射線治療センター

国枝 悦夫

放射線治療センター  放射線治療セカンドオピニオン外来

国枝悦夫医師
公開日:2020年10月15日 |最終更新日: |カテゴリ:乳がん, 放射線治療コラム