内視鏡下グラフト採取術について

大伏在静脈
~下肢静脈瘤と狭心症とをつなぐ意外なkey word~
患者さんのためのQ&A

大伏在静脈が冠動脈バイパス術のグラフトとして使われる

最初に誤解のないように申し上げますが、下肢静脈瘤のある患者さんが狭心症になりやすい、などというわけではありません。病気として関連があるのではなく、下肢静脈瘤の原因となる静脈が、実は冠動脈バイパス術に使われる大事な血管になることがある、というお話です。

冠動脈バイパス術

図1 冠動脈バイパス術


コラム:下肢静脈瘤の原因で解説したように、下肢静脈瘤の原因は表在静脈の逆流防止弁が壊れることです。その表在静脈の中でも最も下肢静脈瘤を引き起こしやすい静脈が、大伏在静脈と呼ばれる、鼠径部から始まり大腿の内側を通って下腿内側へとつながっている静脈です。実はこの静脈は、冠動脈バイパス術の時にグラフトとして多用される静脈でもあります。

下肢静脈瘤となっている静脈はさすがにグラフトには使用できませんが、逆流のない、下肢静脈瘤となっていない大伏在静脈はグラフトとして使用することができます。下肢静脈瘤治療の際には引っこ抜いたり(ストリッピング術)、焼いてしまったり(血管内焼灼術)、接着剤をつめたり(血管内塞栓術)してしまう大伏在静脈ですが、グラフトとして使用する場合には損傷しないように愛護的に採取することになります。

グラフト採取における日米の違い

日本においては、多くの施設が大伏在静脈の走行に沿って皮膚切開を置いて、グラフトを採取することが一般的です。大きい場合は大腿の20-30cmに渡って皮膚を切開することもあれば、傷を小さくする試みとして、10cm程度の皮膚切開を数cm離して複数置く方法が取られることもあります(図2a、b)。

しかし、欧米においては大伏在静脈の採取は内視鏡を用いて行われることが多いです。内視鏡の場合は、ポートを入れるための2-3cm程度の皮膚切開と1cm未満の皮膚切開の二つで、その間の20-30cmの大伏在静脈を採取することが可能です(図2c、図5)。見た目上、傷が目立たなくなるメリットがあるのはもちろんですが、それ以上に術後の創部感染のリスクを低減できると考えられます。

内視鏡下静脈グラフト採取の手術創

図2 通常の静脈グラフト採取の手術創と内視鏡下静脈グラフト採取の手術創の比較
(GETINGEより画像提供)

内視鏡下に採取した大伏在静脈

図3 内視鏡下に採取した大伏在静脈
鼠径部に1cm弱、膝横に2.5cmの創部あり
その間の20cm以上の大伏在静脈を内視鏡下に採取した

枝分かれした大伏在静脈

図4 内視鏡下にこのように枝分かれした大伏在静脈(と副伏在静脈)も問題なく採取できる


内視鏡下グラフト採取システム

図5 内視鏡下グラフト採取システム:Vasoview Hemopro2
(GETINGEより画像提供)


低侵襲な内視鏡下グラフト採取術を積極的に実施します

内視鏡下グラフト採取術は患者さんにとって低侵襲な手技と考えられるわけですが、日本ではこの術式は保険収載されているものの、診療報酬の加算がつかないため(つまり、内視鏡でグラフトを採取する際に必要なディスポーザブル(単回使用)の器具類の費用はすべて病院の持ち出しとなり、病院の収益低下につながる)採用されないことが多いようです。しかし、当科では患者さんにとってのメリットが非常に大きいと考え、この内視鏡下グラフト採取術を標準術式として積極的に行っています。「全ては患者さんのために」(当院のスローガンです)。


静脈グラフトは実は冠動脈バイパス術のみならず、脳神経外科において頭頸部の血管のバイパス手術で用いられることもあります。当院は脳神経外科の手術が非常に多いのが特色ですが、脳神経外科からの依頼で、当科が内視鏡下グラフト採取術を行うことも増えてきています(図6)。

私は、静脈瘤となって治療しなければならない下肢静脈に対しても、機能が正常でグラフトとして活躍していく下肢静脈に対しても、患者さんにとって可能な限り低侵襲な方法で対応したいと思っています。


内視鏡下グラフト採取術の術中風景

図6 内視鏡下グラフト採取術の術中風景(脳神経外科)
右太腿からのグラフト採取を予定している



公開日:2022年5月2日 |最終更新日: |カテゴリ:下肢静脈瘤コラム, 医療コラム
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