間違いやすい「くすり」に関する言葉の話

間違いやすい「くすり」に関する言葉の話
~意外と知らない⁉くすりの話 第4回~
患者さんのためのQ&A

皆さん、「くすり」と「薬剤」、この二つの言葉の違いは分かりますか?

普段何気なく使っている言葉でも、本当の意味を知らずに使っているというのはよくある話だと思います。例えば、「中毒」という言葉は依存性の強い状態を表し、「日本人は仕事中毒だ」のように使われますが、本来は毒物の作用によって生体が機能障害を起すことを意味します。

このように言葉は自然と変化し、違う意味で使われるようになることがあります。

処方と調剤の違い

私が薬剤師になる前のこと、大学で当時所属していた研究室の教授は、言葉の使い方にこだわりの強い人でした。毎日のように「薬剤師として正しい言葉を使いなさい」と言われてきたので、気が付けば私も言葉の間違いが気になり、若い薬剤師にそれを指摘する口うるさいおじさんになってしまいました。

とても気になる間違いの例として、「処方する」という言葉があります。新聞などで「薬剤師が間違えて処方した薬が投与されました」というように使われることがあります。しかし、処方とは「医師が患者の病状に応じて、薬の調合と服用法を指示すること」であり、薬剤師が処方すると法律違反になってしまいます。正しくは「調剤する」です。

また、「座薬」という言葉を良く目にするかもしれません。しかし、これも厳密には誤りです。

薬学の進歩から生まれた「剤」

冒頭の「くすり」と「薬剤」ですが、薬剤の「薬」「剤」はどちらも「くすり」を意味します。

くすりとは「人体に有益な作用をもたらす物質」のことで、昔、人類が何気なく摂取していたものが、ある効能を有していることに気づくと、それがくすりになります。

通常、植物や動物などからくすりとしてその原薬が抽出されます。そして薬学が進歩すると、くすりの原薬がより使用しやすいように加工されるようになります。例えば錠剤やカプセル剤がその例で、このように加工されたものを「製剤」と呼び、加工した形を「剤形」といいます。

つまり「剤」というのは人が直接使用できるように加工されたくすりであることを意味しています。

くすりと薬剤の使い分け

以上のことから、「くすり」は薬効をしめす物質を、「薬剤」は製剤化されたくすりを示します。

そのため、糖尿病の薬であることを表す場合には「糖尿病用薬」と言います。「糖尿病薬」と言ってしまうとその薬は糖尿病になる薬、という意味合いになるため、必ず「用」を入れる必要があります。

また、目薬は正式には「点眼剤」と言い、この場合は剤形を示すことから「点眼薬」ではなく「剤」が使われます。

前述した「座薬」は「坐剤」が正解です。剤形を示しているため「剤」なのですが、「座」ではなく、まだれ(广)のない「坐」になります。私もこの二つの「ざ」の違いはよく分かりませんが、日本薬局方に「坐剤」と記載されているので正解はこちらなのです。

薬剤師としての心がけ

言葉は少しずつ変化するものであり、「座薬」の方が一般的に使われていることを考えると、あながち間違いとも言い切れません。私も患者さんに説明する時は、あえて「座薬」という言葉を使うことがあります。ただし、座って飲む薬ではありませんので注意してください(笑)。

このように、薬剤師はくすりに関する言葉の意味を正しく理解し、適切に使い分ける必要があると思っています。そのため、若い薬剤師には言葉に口うるさいおじさんでいようと思っています。

監修

総合東京病院
薬剤科長
外石 昇

男性薬剤師
公開日:2021年10月1日 |最終更新日: |カテゴリ:医療コラム
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