心臓血管外科

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受診に際しての注意事項とお願い

  • 診療を希望される患者さんは、まずはじめにお電話にてご予約ください。
  • 症状を正確に把握するため、いくつかの検査をお受けいただきます。検査の種類によりお時間を頂戴する場合がありますので、予めご了承ください。

予約・相談ダイヤル 0570-00-3387
(月~土 9:00~17:00)

はじめに

テルアビブ大のユヴァノラルハラリ教授は、著書 “ホモデウス” のなかで以下のように述べています。人類は、それまで生命をおびやかしてきた飢餓、疫病、戦争をほぼ克服しており、自身が生命ピラミッドの頂点、つまり神のようになる。しかし人は、つまるところアルゴリズムであり、その行動原理となる基本メタデータに支配され、結果的に支配者としての人類と家畜としての人類に分別されるであろう、と。何百年、何千年の時空スケールでは真理なのかも知れませんが、現代を生きる我々にとっては、簡単には受け入れられません。なぜなら、同著が出版された時は、コロナウイルスのパンデミック感染が世界を席捲しており、さらに同年、ロシアがウクライナに侵攻。さらにその翌年以降は、ハマスによるイスラエル攻撃がきっかけでパレスチナガザ地区での戦闘が激化しています。このような世界の理不尽はいまだ解決の目処がたたず、今後も国際政治の動向から目が離せません。現時点で人類は、“神”どころか、“単なるバカな単細胞生物である”としたほうが、よほど説得力があると思います。

私の考える社会の理不尽の主体は、暴力(戦争から家庭内暴力、一部メディアによるフェイクニュースまで)、差別(性差別から人種差別など)、災害(地震や津波、森林火災など)、そして疾病であると考えています。それらいずれに対しても人類はいまだ完全には克服できていません。しかし今まさに叡智を結集するべきで、今までそうであったように次の世代へしっかりと知見を残していかなければならないと考えています。医療とは生命科学を基礎としたサイエンス実証現場であり、私の挙げた四つ目の理不尽に対峙するものです。こうしている間も、いきなり眩暈がして精査したら白血病だった、いきなり胸痛がおこったら大動脈が裂けていた、極度の便秘だから調べたら大腸癌だった、などなど、自らどうすることもできない運命が突然人々に襲いかかっています。私はこのような理不尽に耐え難い怒りを覚えます。当科、総合東京病院心臓血管外科も、理不尽きわまりない心疾患、血管疾患に日々向き合い続けています。

“疾患”という理不尽にさらされた隣人や家族をもたれたご経験がある方、多いのではないでしょうか。そのような方々の立場からすれば、一見神聖に見える白衣を着た医師から、“あなたは大丈夫です”、と言われたら、一時的にもほっと安心されるでしょう。しかし医師の”大丈夫”とは、いまのところ、とか、現時点のデータから鑑みるに、という隠された前置きがかならず存在します。これは、この車の安全性はほぼ大丈夫だとか、このマンションはよほどの火事でも耐えられるという文言といくらか似ています。あらゆる診断や医療行為に100%はありえません。しかしそのような不確実性を併せ持つ医療だからこそ、患者さんひとりひとりに真摯に向き合い、正直にお話しし、今現在の自身のベストを発揮して患者さんに寄り添うことが、唯一われわれにできる誠意です。当科ではそのような行動哲学を基本として一人一人を診療いたします。

伝説のプロマーケターの森岡毅氏は、著書 “苦しかった時の話をしようか” の中で、次の様に述べています。人が、本当に辛いのは、死ぬほど忙しい時でもなく、また仕事がうまく行かなかった時などでもない。自分自身の存在意義がなくなってしまうのではないかと不安に陥る時である、と。働き盛りの方が、今週も私のもとで心臓手術を受けられました。患者さんのさまざまな不安のなかには、病気そのものに関する不安はもちろん、そのように社会的存在意義を失ってしまうのではないかと不安に陥る患者さんもたくさんいらっしゃいます。ですから私は、低侵襲治療にこだわります。当科では、可及的に右小開胸、左小開胸手術を導入しています。特に、ご自身の職務に大きな不安を抱いておられる方の場合には、術後4日後退院をルーチンとして、早期職場復帰を目指していただきます。

当科は、循環器領域の中の外科領域ですから、基本的には心臓血管手術が必要になられた方が受診されています。本当は、私のような外科医に知り合うことなく一生を全うするのが望ましいことは言うまでもありません。しかし、ご自身にふりかかったこの理不尽は、受け止める以外にしかたのないものとして腹をくくってファイトしていただき、私と一緒に病気と対峙していただきたい。きっと、私たちはあなたのお役に立てると思います。

診療責任者 前場 覚
2024年3月

当科での治療対象

  • 弁膜症や感染性心内膜炎に対する、弁形成術 弁置換術
  • 虚血性心疾患に対する、冠動脈バイパス手術 心筋梗塞合併症手術
  • 大動脈疾患に対する、人工血管置換術 ステントグラフト留置術
  • 閉塞性動脈硬化症に対する下肢動脈バイパス手術
  • 不整脈に対する、アブレーション手術(メイズ手術)
  • 成人先天性心疾患に対する、修復手術
  • その他の心臓手術
  • 下肢静脈瘤に対する、レーザー血管内治療
  • 透析用内シャント手術

当科では手術の低侵襲化、特に右開胸小切開下心臓手術を積極的に推進しています。

心臓手術をご提案された方であれば、低侵襲心臓手術とか、MICSとか、お聞きになられた方も多いと思います。MICSとは、Minimally Invasive Cardiac Surgeryの略で、一般的には、5~8cm程度の皮膚切開で右開胸(あるいは左開胸)を行い、片方の肺をしぼめて心臓にアプローチする方法です。ここでいう開胸とは、肋骨と肋骨の間を切開するという意味になります。通常、心臓手術は古典的にも現代でも、胸骨正中切開と呼ばれる胸の真ん中を縦切りにして行うのがスタンダードです。短い小皮膚切開の開胸で、前胸部の真ん中の骨を切らないMICS法は、女性であればやはり美容的見地から魅力的な方法であるはずです。しかしながらMICSの最大の魅力は、感染や出血が少ない傾向にあることと、術後の離床(術後にベットから立ち上がって歩けるようになること)が早く、退院までの期間が短い傾向にあることだと考えています。ですから見た目を気にされる若い方だけでなく、ご高齢の方、足が不自由な方などで術後のリハビリに不安を感じる患者さんにも有効です。MICSで施行できる疾患と、できない疾患とがあり(もう少し詳しく述べれば、MICSで行っても良好な予後が見込める病態と、そうでない病態とがあり)、患者さんの病状にあわせて手術術式をご提案しています。当科でのMICS適応範囲は、今のところ僧帽弁手術(大動脈弁手術を併行しない)、大動脈弁置換手術(僧帽弁手術を併行しない)、三尖弁手術、心臓腫瘍の一部、心房中隔欠損症手術です。

一方、MICSで行えば全てが低侵襲!というわけではありません。適応を誤れば、結果的に過大侵襲に陥る事例も存在しますから、われわれも適応決定には当然慎重になっています。適応範囲を正しく限定し、治療選択肢のひとつとして患者さんに誠意を持って提示するべきで、当科ではあらかじめ十分に手術の説明をさせていただきます。

冠動脈バイパス手術は、心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)を標準術式としています。

心臓は全身の臓器に血液を送るためのいわばポンプとして機能しますが、その心臓自身も働き続けるためには、酸素や栄養を必要とします。その心臓に血液を送るための血管である冠動脈に狭窄を来たして心筋が虚血に至り、胸痛などの症状が出る疾患が狭心症です。狭くなった冠動脈に自分の動脈や静脈を使用して迂回路を作り、狭窄部位よりも末梢の血流を増やすことで狭心症の徴候を改善させるのが冠動脈バイパス手術になります。昨今のデバイスの進化に伴い、多くの狭心症は循環器内科が行うカテーテルによって治療を行うことができます。当院でも循環器内科にて数多くのカテーテル治療を行なっております。しかし、冠動脈病変の状況によっては、冠動脈バイパス手術の方が長期予後がより良好(より長生きできる可能性が高くなる)と考えられる例があります。それが下記の3つです。

  1. 3枝病変:主要冠動脈3本に重症狭窄病変を認める場合。
  2. 左冠動脈主幹部狭窄:大動脈から左冠動脈が分岐してすぐの部位に狭窄がある場合。
  3. 糖尿病症例:インスリン依存状態にあるような重度の糖尿病を合併している場合。またその合併症である糖尿病性腎症が併存する場合。

以上のような例では、循環器科医師と心臓外科医師により治療選択肢として冠動脈バイパス手術がご提案されます。

冠動脈バイパス手術には、人工心肺を使用して行う方法の他に、人工心肺を使用せず心臓が動いたままの状態で行う心拍動下冠動脈バイパス術( OPCAB )という方法があります。人工心肺を使用すると、心臓の拍動を一旦止めることができ、血管吻合が容易になるというメリットがあるのですが、一度止めた心臓の機能が十分に回復するまでに時間を要することや、それ以上に血液が人工心肺の回路に触れることで全身性の炎症や凝固能異常などが惹起されるといったデメリットもあります。当科では可能なかぎり、OPCABをプランいたします。

大動脈瘤治療について

大動脈は、心臓から拍出された血液を全身に送る水道管のような役割をしています。その水道管に瘤(コブ)ができるのが大動脈瘤です。ほとんどの例では、大きくなっても破裂するまで症状がありません。そのため、別の目的でCT検査を受けられた時に、偶然発見されることも多く見受けられます。

大動脈瘤がいったん破裂すると、体内で大量に失血して多くの場合は頓死してしまいます。つまり、大動脈瘤は体の中にできた時限爆弾のような病気と言えます。この爆弾が破裂する可能性が高いかどうかは、瘤の大きさと形により判断します。胸の大動脈瘤では55-60mm、お腹の大動脈瘤で45-50mmの大きさになると、破裂する可能性が高くなり、積極的に治療の介入が必要です。また、形のいびつな突出するような瘤も治療の対象となります。

治療ですが、瘤(コブ)になった部分を切除し、人工の血管に置き換える(開胸・開腹下)人工血管置換術が、以前から行われているスタンダードな治療法です。前述のとおり術前には、瘤そのものは(破裂するまで)健康上の問題はありません。しかし術後には、手術によるダメージで一時的に体力が落ちます。また瘤の場所によっては、大きな皮膚切開創が余儀なくされるのも欠点です。ご高齢の方や別の疾患で体力の落ちている患者さんの場合、このような手術を乗り切るのが困難な場合もあります。

それに対し、2006年に日本で企業性製品が認証され、大動脈瘤治療に革命を起こしたのが大動脈ステントグラフトです。この治療では、鼠径部(太ももの付け根)に約3cmの切開を加えるのみで、大きな切開創は必要ありません。太ももの動脈からカテーテル(細い管)を挿入して大動脈瘤の治療を行います。この治療は、体内の爆弾を摘出するのではなく、大動脈瘤内にステントグラフト(骨格付き人工血管)を挿入することにより、爆弾を不発弾に変えてしまうイメージの治療です。小さな傷で、しかも短時間で手術が終わるため、ダメージが少なく、ご高齢の方や別の疾患で体力の落ちている患者さんにも治療が可能となりました。しかし、不発弾となってはいるものの体内に爆弾が残るため、定期的なCT検査による経過観察が必要で、場合によっては追加の治療が必要となることもあります。

当院では、大動脈瘤に対して上記両方の治療が可能です。個々の患者さんの大動脈瘤の形態や全身状態、既往疾患を十分考慮して、治療方法を患者さんと一緒に選択します。基本的には、比較的若くて体力のある方には根治性の高い人工血管置換術を、ご高齢で体力的に難しい方には、よりお体にやさしいステントグラフト内挿術をお勧めしています。

内視鏡下グラフト採取術のメリット

当科では冠動脈バイパス術の際に使用するグラフト(大伏在静脈、橈骨動脈)の採取に、内視鏡下グラフト採取術を積極的に行っております。この方法は欧米ではごく一般的に行われている手技ですが、本邦においては保険収載はされているものの診療報酬の加算がない(内視鏡を用いて手術をする際の単回使用の器具の費用が病院の持ち出しとなる)ことから、まだまだ普及しているとは言い難い状況にあります。

しかし、内視鏡を使わないでグラフト採取を行った場合よりもはるかに傷が小さいため整容面に優れ、また傷が小さい分、術後の創部感染等の合併症も減少することが期待できます(傷が大きければ大きいほど感染のリスクも高くなるため)。当科ではこの方法を、患者さんにとって大きなメリットのある手技であると考え、標準術式として行っております。

当院は脳神経外科の手術が多いことが特徴ですが、脳神経外科においてバイパス用のグラフトが必要になる場合も積極的に当科で内視鏡下グラフト採取術を行っています。

手術動画

ハイブリッド手術室

ハイブリッド手術室

施設紹介

ICU風景

ICU風景

病室風景

病室風景

手術実績

当院心臓血管外科チームが運営する2施設(総合東京病院、新百合ヶ丘総合病院)における手術件数をご紹介いたします。











スタッフ紹介

前場覚医師

前場 覚

部長


動画はこちら

個人の手術実績(前場医師の個人ホームページ)はこちら

主な経歴

  • 1996年 山梨医科大学医学部 卒業

専門としている領域

  • 弁膜症や感染性心内膜炎に対する弁形成術・弁置換術
  • 虚血性心疾患に対する冠動脈バイパス手術・心筋梗塞合併症手術
  • 大動脈疾患に対する人工血管置換術・ステントグラフト留置術
  • 不整脈に対するアブレーション手術(メイズ手術)

専門医・指導医

  • 日本心臓血管外科学会認定心臓血管外科専門医・国際会員
  • 3学会構成心臓血管外科専門医認定機構修練指導者
  • 日本循環器学会認定循環器専門医
  • 胸部ステントグラフト指導医
  • 腹部ステントグラフト指導医

診療看護師

手塚雄太診療看護師

手塚 雄太

診療看護師

主な経歴

  • 2008年 昭和大学保健医療学部看護学科 卒業
  • 2023年 東京医療保健大学大学院 看護学研究科 高度実践看護コース 修了

専門としている領域

  • 重症集中ケア、救命救急、心臓血管外科

専門資格

  • 看護師(看護学修士)
  • 保健師
  • 日本NP教育大学院協議会 診療看護師(NP)
  • 特定行為21区分38行為修了
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 心電図検定1級
  • 弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター
  • NST専門療法士
  • ISLS(脳卒中初期療法)コース修了
  • 第一種衛生管理者

スーパーバイザー

下川智樹医師

下川 智樹

スーパーバイザー

主な経歴

  • 1992年 佐賀医科大学 卒業/佐賀医科大学胸部外科
  • 1995年 榊原記念病院 専修医
  • 1998年 佐賀医科大学胸部外科 医員
  • 2002年 榊原記念病院心臓血管外科 医長
  • 2009年 帝京大学医学部心臓血管外科学講座 主任教授

専門としている領域

  • 心臓血管外科

専門医・指導医

  • 日本外科学会認定外科専門医・指導医
  • 日本心臓血管外科学会認定心臓血管外科専門医
  • 日本循環器学会認定循環器専門医
  • 日本胸部外科学会認定医
  • 医師臨床研修指導医