3. 腰椎変性疾患

腰椎変性疾患

図3-1 腰椎椎間板ヘルニアの立体模式図(左)と矢状断面図(右)

腰椎椎間板ヘルニアとは、腰の骨と骨をつないでいる椎間板という軟骨が、椎間板の後ろにある脊柱管という神経を入れてある管の方にはみ出てしまう病気です(図3-1)。腰の神経は脚全体に分布していることから、ヘルニアが神経を圧迫し、脚の特定部位に痛みやしびれを生じます。痛みやしびれが生じる場所は、圧迫を受けた神経の支配領域に一致します。腰椎椎間板ヘルニアで最も多いのは第4腰椎と第5腰椎間のヘルニアで一般に第5腰神経の支配領域に一致して痛みとしびれを生じる(図3-2,3-4)。腰椎椎間板ヘルニアで次に多いのは第5腰椎と第1仙椎間のヘルニアで多くは第1仙骨神経の支配領域に一致して痛みとしびれを生じる(図3-3, 3-5)。症状がすすむと、痛みだけでなく、脚に力が入らない(筋力低下)、触った感覚が鈍い(知覚障害)といった症状もあり、おしっこがでにくいなどの排尿障害が起こることもあります。また、足の親指や足首を上に挙げることが困難になります。

図3-2 腰椎椎間板ヘルニアの局在診断。
第4-5腰椎間ヘルニアでは第5腰神経が圧迫を受け、赤丸の部位に痛み、しびれを起こす。
第5腰椎-第1仙骨間ヘルニアでは青丸の部位に痛み、しびれを起こす。

少し専門的になりますが、腰椎椎間板ヘルニアは脱出部位により症状発現が異なります(図2-3)。第4/5椎間板ヘルニアの場合
①medial type(正中型):硬膜嚢を圧迫し、複数の神経根症状を呈し、馬尾神経症状を呈する。
②posterolateral type(後外側型)および③foraminal type(神経孔型):L5神経根を圧迫し、L5神経根症状を呈する。④far-lateral(超外側型)あるいはextra foraminal type(椎間孔外側型):脊柱管外に脱出し、L4神経根を圧迫し、L4神経根症状を呈する。尚、⑤L4/5椎間板ヘルニアが上方へ脱出するとL4神経根症状を呈し、同様に⑥L5/S1椎間板ヘルニアが上方へ脱出するとL5神経根症状を呈する。

図 3-3 硬膜嚢,神経根,椎間板,椎弓根部との位置関係を表した図
伊藤康信,中川洋: 腰椎椎間板ヘルニア,脳神経外科臨床マニュアルIII,第4版.脊椎,脊髄疾患,端和夫編,2010,シュプリンガー・ジャパンより引用

治療法は、非ステロイド性鎮痛剤などの薬物治療と、コルセット装具などによる安静治療が基本ですが、牽引治療などの理学療法が有効なこともあります。痛みが強い場合は、注射やブロック療法を行います。ほとんどの腰椎椎間板ヘルニアは、これらの保存的な治療で症状が軽快する。また、椎間板ヘルニアの中には、自然に吸収され、小さくなっていくものもあります。しかし、保存的治療では軽快せず、筋力低下が著しい場合、排尿障害がある場合、下肢痛が持続する場合などは、手術が考慮されます。

腰椎椎間板ヘルニアに対する手術は腰椎手術の中では基本的なものですが、決して初心者手術ではありません。生死にかかわる重大な医療事故例も報告されています。辻陽雄先生(富山医科薬科大学名誉教授)が述べているように、「基本的な術式であるが、経験を重ねれば重ねるほど千差万別の難しさのあるもので、初歩的な手術では決してありえない。」私もこれには全く同感です。

外科的適応

■ 相対的適応

  1. 数ヵ月の保存的療法が無効である。但し、10歳代は6ヵ月、9歳以下は少なくとも1年は経過観察する。
  2. 痛みはさほどでないが、麻痺が進行し、強いしびれを訴える。
  3. 根性痛の複数回の既往があり、保存的療法で完治が望めない。
  4. 下肢の強い運動麻痺(母趾背屈力低下、下垂足)
  5. 単一根性の間欠性跛行 intermittent claudication

■ 絶対的適応

  • 急性馬尾症候群 acute cauda equina syndrome
    下肢・会陰部の知覚障害、下肢の弛緩性麻痺、膀胱・直腸障害、インポテンス、坐骨神経痛
頸椎変性疾患

図3-4 腰椎椎間板ヘルニアのMRI所見。
第4-5腰椎間にヘルニアがあり、神経を収納する硬膜嚢を前方から圧迫している。腰椎MRI矢状断面像(左)および横断面像(右)、T2強調像

頸椎変性疾患

図3-5 腰椎椎間板ヘルニアのMRI所見。
第5腰椎-第1仙骨間にヘルニアがあり、神経を収納する硬膜嚢を前方から圧迫している。腰椎MRI矢状断面像(左)および横断面像(右)、T2強調像

脊椎・脊髄外科領域にも日帰り手術の波が押し寄せ、腰椎椎間板ヘルニアの内視鏡手術が盛んに行われるようになってきました。さらに、テレビモニター上で2次元観察しかできない内視鏡手術の大きな欠点(すなわち、立体観察ができない)を補うべく、筒型開創器(tubular retractor)を利用した顕微鏡下手術(図3-6~3-10)が始まり、当部門でも平成16年より導入しました。この低侵襲手術法の結果、従来の顕微鏡下椎間板ヘルニア摘出術よりさらに入院期間の短縮、創部痛の軽減が可能となっている。さらに、従来からのCASPAR開創器より小型のPiccolino(図3-11~3-13)開窓術が開発され、Quadrant開創器と同等の処理が可能になっています。

頸椎変性疾患

図3-6筒型開創器(チュブラーレトラクターtubular retractor)を利用した顕微鏡下手術

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図3-7 Quadrant® retractorおよびMETRx-MD® system (Medtronic)による腰椎椎間板ヘルニアに対する顕微鏡下手術

頸椎変性疾患

図3-8 Quadrant® retractor(dilator抜去後)およびMETRx-MD® system (Medtronic)による腰椎椎間板ヘルニアに対する顕微鏡下手術

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図3-9 Quadrant® retractorによる顕微鏡下での対坐手術(duo-scope microsurgery)

図3-10 Quadrant retractor による顕微鏡手術下腰椎椎間板ヘルニア摘出術の手順
伊藤康信,中川洋: 腰椎椎間板ヘルニア,脳神経外科臨床マニュアルIII,第4版.脊椎,脊髄疾患,端和夫編,2010,シュプリンガー・ジャパンより引用

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図3-11 従来からのCASPAR開創器と比較して,より小型の開創器(Piccolino retractor)も導入されている

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図3-12 36歳・女性.右L5-S1椎間板ヘルニアの腰椎MRI像(右:矢状断面,左:横断面)

図3-13 Piccolino開創器を使用した手術例。図3-12の術中顕微鏡写真。ヘルニア摘出前は右S1神経根が手前に挙上され、扁平化しているが、ヘルニア摘出後は元の位置にもどり、丸みを帯びるようになり,除圧が達成されている

脳神経外科医による脊椎・脊髄外科

脳神経外科、略して脳外科という名称は実は日本でのみ通用する名称です。欧米では神経外科(Neurosurgery)と言われます。この名称を反映してか、日本における脳外科は脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷など脳疾患だけを扱い、背骨の病気は整形外科が担当すると誤解されています。一方、脳のつかない神経内科という名称にはだれも違和感は抱きません。

腰椎椎間板ヘルニアは坐骨神経痛の最も多い原因です。この発生機序を臨床的に初めて解明したのはアメリカ・マサチューセッツ総合病院神経外科の初代チーフであるMixterで、1934年にNew England Journal of Medicineという学術雑誌に報告しています。この時のヘルニア摘出術は椎弓切除と経硬膜アプローチで行われ、侵襲の大きいものでした。現在、ラブ法と呼ばれ広く知られている椎弓間・硬膜外アプローチでの椎間板ヘルニア摘出術の基本的手技を確立したのはアメリカ・メイヨークリニックの神経外科医であるLoveで、1938年にJAMAという学術雑誌に発表しています。手術用顕微鏡を使用した腰椎椎間板ヘルニア摘出術を最初に実施したのは顕微鏡手術の父と言われているスイス・チューリッヒ大学神経外科元教授のYasargilです。

このような歴史的背景から、欧米の神経外科での脊椎・脊髄手術が占める割合は手術全体の60-70%を占めます。お隣韓国でも脊椎・脊髄外科診療を担当するのは神経外科医が中心で、脊椎・脊髄手術の占める割合は欧米よりさらに高いと言われています。遡ること朝鮮戦争の時に、アメリカ軍医の指導による脊椎・脊髄外科治療がそのまま定着した歴史的経緯があります。当院脳神経外科のように脊椎・脊髄外科に取り組む脳神経外科医は増えてきています。脳神経外科医のお家芸である手術用顕微鏡を使用することにより、より低侵襲的外科的手術が可能になっています。

直立での歩行継続が困難で、しゃがみこんで前かがみになることで回復することを間欠性跛行(かんけつせいはこう)といいます。原因別に馬尾性(ばびせい)、末梢性(まっしょうせい)、脊髄性(せきずいせい)に分類されますが、前2者が多く、脊髄の血管奇形などが原因の脊髄性はまれです。

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図3-14 腰部脊柱管狭窄症の模式図(左)と腰椎MRI(右).L4-5間で硬膜嚢の狭小化がみられる

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図3-15 腰部脊柱管狭窄症例
a: 腰部脊柱管狭窄症のMRI.第4/5腰椎間レベルで馬尾(神経の束)の圧迫(←)がみられる。b: aと同じ患者さんの脊髄造影正面像。矢印間で馬尾の圧迫がみられる。c: 腰部脊柱管狭窄症の脊髄造影正面像。白い造影剤が第4/5腰椎間(→←)でブロックされ、下方が造影されず、矢印間で強い神経圧迫の存在が示唆される

 馬尾性は腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)によって起こります(図3-14~3-15)。脊髄が入っている背骨の管(脊柱管)が狭くなり、脊髄から枝分かれした神経の束(馬のしっぽに似ていることから馬尾と言われる)が潰されることを指します。加齢現象に伴い、脊柱管を構成する椎間板、椎間関節、黄色靭帯などに退行性変化(膨隆・肥厚)が生じ、結果として硬膜嚢、馬尾神経、腰髄神経根が圧迫される病態です。お尻から脚の後ろ側にかけてのしびれのために歩行困難となり、しゃがみこむか、立ったまま前かがみ姿勢をとると改善します。路上でシルバーカーを押しながら腰を前かがみにして歩いている高齢者をみかけることがありますが、腰部脊柱管狭窄症の実例です。末梢性は下肢の動脈の血流不全によって起こり、多くはふくらはぎの痛みのため歩行困難となります。末梢性間欠性跛行の治療は心臓血管外科、循環器内科で行われますので、専門医にご相談ください。
 馬尾性間欠性跛行の治療は鎮痛剤、コルセット着用、神経ブロック療法などの保存的治療から開始されます。無効な場合に手術が考慮される。

 今日のように高齢者の一人暮らし、老齢夫婦だけの所帯の増加、そして同居世帯でも日中若い人が働きにでて日中放置される高齢者が増加しています。このような状況では少なくとも身の回りのことが自分でできて、自力移動ができなければ生活が成り立たない状況におかれています。当事者である高齢者も年のせいだからしょうがないと自分で納得し、かかりつけ医も同様なことを高齢者に言います。また、一般脳神経外科外来でみることが多い脳卒中後遺症をもつ患者さんにいたっては脳卒中後遺症による片麻痺と失語症などに加え、変形性腰椎症による腰痛と下肢痛の多重苦を強いられているのが現状です。適切な治療で勿論麻痺は回復しないまでも腰痛と下肢痛が軽減されるだけで、その高齢者のQOLは大幅に改善します。このような理念で我々は全身状態が許せる範囲で高齢者医療に積極的に取り組んでいます。脊椎・脊髄外科領域で最も多い手術症例はこのような腰椎変性疾患です。

手術は通常、腰椎開窓術(ようついかいそうじゅつ)(図3-16~3-18)といって術後の脊椎変形の進行を最小限にする方法が第一に選択されます。最近ではより体に負担の少ない手術が行われ、幅22mm前後の筒を神経がつぶれている部位に挿入し、内視鏡あるいは手術用顕微鏡で神経の圧迫をとる方法が開発され、入院期間の短縮と早期の社会復帰が計れるようになってきました。
 この分野では脊椎固定のための脊椎インストルメントの適正使用の是非が問題となります。脊椎外科領域では腰椎椎体間固定および椎弓根(ついきゅうこん)スクリュー (pedicle screw)固定という腰椎すべり症や腰椎不安定性病変対する手術が盛んに行われています。この手術で使用される脊椎インストルメントは高額で、医療費高騰の一因となっています。脊椎インストルメントを留置するためには腰椎支持組織に大きな侵襲を加えることになり、術後に耐えがたい腰痛をきたすことがあり、いわゆるFBSS (failed back surgery syndrome)の原因のひとつに挙げられる。顕微鏡下に低侵襲手術に心がけ、その結果として腰椎支持組織への侵襲が最小限に抑えられ、術後に腰椎の不安定性をきたすことが少ない。したがって、脊椎インストルメントによる固定が不要になる。すなわち、腰椎の不安定性と腰椎支持組織の温存とのバランスの取れる範囲内での手術侵襲に止めるか否かの違いです。基本的手術は開窓術で、強い不安定性が存在する場合に初めて腰椎椎体間固定および椎弓根スクリュー固定を選択するのが、基本的な治療方針と考えている。

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図3-16 腰部脊柱管狭窄症に対する顕微鏡下減圧手術法(CASPAR retractor使用による)。片側アプローチによる両側椎弓切除術および両側黄色靱帯摘出術

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図3-17 腰部脊柱管狭窄症の術前(上)および術中(下)写真。上: L3-4およびL4-5椎間レベルに強い狭窄所見がみられる。下: 黄色靱帯切除後の減圧された硬膜嚢

図3-18 図3-17症例の術前(上)および術後(下)CT写真.術後脊柱管の拡大がみられる


50歳以上の女性に多い、重苦しい慢性の腰痛をきたす腰椎すべり症。重症例に対して、従来法と比べて体に負担の少ない外科的治療法が開発されている。短期間の入院で退院が可能となり、これまでの保存的治療に効果のない患者さんに期待されている。

腰椎すべり症とは背骨が前方にずれた状態で、腰椎変性すべり症と腰椎分離すべり症に分類される。腰椎すべり症の主な症状は重苦しい、だるいといった腰痛であるが、坐骨神経痛や間欠性(かんけつせい)跛行(はこう)(立位歩行で下肢の痛みしびれが出現し、前かがみで少し休むとまた歩けるようになる症状)が表れることもある。家事や仕事で動いたり歩いたりした後に起こりやすい。安静にして、活動を控えれば痛みは軽減する。腰椎とは腰の背骨のことで、5つの骨が積み木を重ねたような構造をしている。重なりがずれないように椎間板、関節,靱帯,筋肉などが支えているが,腰椎がずれてしまうことで症状が表れる。腰椎がずれると,それ以上に滑らないように筋肉に負担がかかるため,疲労して痛みが生じる。さらに、神経の通り道である脊柱管が狭まり,間欠性跛行、肢の痛みやしびれ、また膀胱直腸障害などの腰部脊柱管狭窄症の症状を来すことがある。 腰椎変性すべり症は50歳以上の女性に多く、第4腰椎に好発する。加齢によって椎間板や椎間関節の変性が進み脊椎が緩んだ状態になって第4腰椎が第5腰椎を乗り越えて前にずれることで脊柱管が狭くなって症状が発現する。脊椎の安定に大切な椎間関節が形態的に弱い人に多く起こりやすいとされている。

 腰椎分離症は、腰椎の関節突起部に離断がある病態で、骨格の未発達な成長期におこる疲労骨折が原因である。好発年齢は10~15歳で、それ以降の発症は稀である。腰椎分離症の10~30%はすべり症を併発する。腰椎分離すべり症の好発部位は第5腰椎で、若い頃は無症状であるが、中高年になって腰痛などの自覚症状が表れる。

 腰椎すべり症の治療は一般に、保存的療法から開始される。通常の腰痛の治療法と変わりはなく、痛み止めなどの薬剤投与やコルセットを使った治療、ペインクリニックでの各種神経ブロック療法、腰痛体操などのリハビリテーションなど種々の治療法が行われる。その他、民間・代替療法まで加えると無尽蔵の治療法が存在する。このことからも腰痛の確固たる治療法は確立していない。

 治療効果がえられず、日常生活や仕事に大きな支障がある場合、とくに痛みやしびれが強く、歩行障害や排尿・排便障害がある場合には手術が考慮される。腰を支える力が非常に弱く、腰椎が安定していない症例には「腰椎椎体間固定術」という手術が行われる。椎間板腔内に自家骨を充填したスペーサーを挿入留置し、その後腰椎に椎弓根スクリューというボルトを打ち込み、つないで腰椎を固定するという手術を施行する。当院ではエックス線で透視しながら、スクリュー1本につき長さ15mmの小さい創で挿入可能な方法を採用し、患者さんへの負担を大きく軽減させている。

 腰椎不安定性を伴う腰椎疾患に対して腰椎固定術が行われる.腰椎椎間固定法には3つの代表的な手法(図3-19)がある.

  1. 後方腰椎椎体間固定術PLIF (posterior lumbar interbody fusion)
  2. 経椎間孔椎体固定術TLIF (transforaminal lumbar interbody fusion)
  3. 前方椎体間固定術ALIF (anterior lumbar interbody fusion)

の3法です。前2者が主に実施されています。通常、腰椎椎間固定術だけを単独で行うことは少なく、椎弓根スクリュー(pedicle screw)固定を追加します。

不安定性の強い腰椎変性すべり症、腰椎分離すべり症などで行われます。椎間板摘出後、椎体間にチタン製(図3-20)、カーボンファイバー製(図3-21)あるいはPEEK製スペーサー(図3-22)を挿入留置します。その後、椎弓根スクリューを挿入して椎体間の安定化を図ります。脊柱管の前後を固定することから初期固定性に優れ、早期離床および早期退院が可能です。

頸椎変性疾患

図3-19 PLIF(左),TLIF(中央),ALIF(右)

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図3-20 チタン製椎体間スペーサー (Contact fusion cage, DePuy Synthes) このスペーサーはinsert & rotate techniqueにより挿入留置するタイプのもので、スペーサーは椎間腔内に留置後90度回転し、椎間腔高を開大し、腰椎アライメントの前彎矯正が可能である。PLIFおよびTLIF用である。

図3-21左図:カーボンファイバー補強PEEK製椎体間スペーサー(Concorde CFRP, DePuy Synthes).右図:カーボンファイバー&PEEK合剤であることから、X線透過性で、tantalumマーカーによりX線イメージで位置確認が可能である。また,スペーサー内の骨移植を同定することができ、骨癒合の評価に役立つ。


図3-22 PEEK製椎体間スペーサー (Capstone control PEEK®, Medtronic)
左:PEEK自体はX線透過性で、tantalumマーカーによりX線イメージで位置確認が可能である。また,スペーサー内の骨移植を同定することができ、骨癒合の評価に役立つ。このcapstone controlはinsert(中央) & rotate(右) techniqueにより挿入留置するタイプのもので、スペーサーは椎間腔内に留置後90度回転し、椎間腔高を開大し、腰椎アライメントの前彎矯正が可能である。PLIFおよびTLIF用である。


南東北グループ脳神経外科/脊髄外科では,平成18年より,経皮的椎弓根スクリュー挿入固定法によるMISS(Minimally Invasive Spinal Surgery)を導入しています。

図3-23 左: CD HORIZON SEXTANT® ADVANCE Rod Insertion System (Medtronic社製),中央: 経皮的にrodを挿入している図、右:航海計器の六分儀(Sextant)


当初はCD HORIZON SEXTANT® Rod Insertion System (Medtronic)を採用した(図3-23)
 この手技は次世代の椎弓根スクリュー挿入法です。従来、椎弓根スクリューを挿入するには背中の筋肉を広く開創することから、腰椎支持組織に大きな侵襲を加えることになり、術後に耐えがたい腰痛をきたすことがありました。新しい手法では、椎弓根スクリューは小さな開創部から経皮的に挿入し、椎弓根スクリューを連結するのも彎曲したロッドをやはり小さな開創部から経皮的にスイングさせるように挿入・設置します.航海計器の六分儀になぞらえてSextantと命名されている(図3-23)。脊椎外科手術の中で、大きな外科侵襲の代名詞であった後方腰椎椎体間固定および椎弓根スクリュー法がより低侵襲的に実施できるようになりました.術後の創部痛も従来法に比べて軽度です。
 その後、各社から優れたシステムが随時開発されている。代表例(図3-24,3-25)を示す。

図3-24 経皮的椎弓根スクリュー挿入法(Viper X-tab screw system, DePuy Synthesを使用).a-g: 術中X線撮影側面像.h: 正面像
a: X線透視下に,内外筒からなる二重構造のニードル針を経皮的に穿刺し,椎弓根を貫通し,椎体内に挿入する
b: 内筒を抜き、細いK-wireを挿入留置後、外筒を抜去する
c: 次に至適な長さおよび径の中空の椎弓根スクリューをK-wireを介して椎弓根さらに椎体内に挿入し、,K-wireを抜去後に、さらに挿入する
d: 経皮的に椎弓根スルリューが挿入留置された
e: 同様な操作でL4, L5, S1椎体内に左右に椎弓根スクリューを挿入留置する。この際,各スクリュー挿入にはそれぞれ約15mmの皮膚切開を要する
f: L4椎体に挿入した皮膚切開から長さ65mmのロッドを挿入し、セットスクリューで締結した
g. extension tabを摘出後の最終側面像
h: extension tabを摘出後の最終正面像


図3-25 経皮的椎弓根スクリュー挿入法(Viper X-tab screw system, DePuy Synthesを使用)によるL4-L5-S1後方固定の術後3D-CT像(左: 正面像,右: 側面像)


以下、腰椎変性すべり症に対して腰椎椎間固定および椎弓根スクリュー固定を実施した代表例を呈示する

症例1 (60代、女性)  図3-26~3-29

平成16年1月頃から、歩行および立位時の鈍い腰痛、両大腿後面の痛み、しびれおよび冷感あり、平成16年3月に某院受診。L4/5レベルにMeyerding I度のすべり症と、腰椎X線動態撮影で、腰椎不安定性が指摘された。保存的に経過観察されていた。4年後の平成20年3月当方受診。歩行および立位時の腰痛、両下肢の痛み、しびれ、冷感がさらに増強し、ADLおよび仕事に大きな支障をきたすようになった。腰椎単純X線撮影で、L4/5間のすべりがMeyerding II度に進展し、L4-5椎間腔の狭小化および腰椎不安定性も増強していた。平成20年5月14日にL4-5レベルのPLIFおよび椎弓根スクリュー固定を実施した。
 術後約3年が経過し、難治性の腰痛および下肢症状は全快している。

図3-26 初回受診時の腰椎X線動態撮影: L4-5レベルで不安定性を伴ったMeyerding I度のすべりが認められる.初回受診時の腰椎MRI: L4-5レベルにすべりによる硬膜嚢の狭小化がみられる。


図3-27 初回受診後4年の腰椎X線動態撮影: 正中位ですべりはMeyerding II度に増強し、不安定性も顕著になっている。初回受診後4年の腰椎MRI: L4-5レベルの狭窄はさらに増強している。


図3-28 術後6ヵ月の腰椎単純X線撮影: PLIF (m-spacerによる腰椎椎間固定) & Pedicle screw fixation (Sextant® rod insertion system), 術後腰椎CT横断面像。


図3-29 術後1年の腰椎MRI: L4-5レベルの狭窄は改善している。


症例2 (50歳,女性) 図3-30~3-33

1年来の左に強い両下肢の痛みとしびれを訴える。最近は間欠性跛行(50メートル以上の連続歩行困難)および10分以上立っているのも困難となってきた。各種保存的治療で効果なく、家事ならびに仕事に大きな支障をきたしていることから、手術実施。

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図3-30.手術前の腰椎X線撮影側面像(A)および腰椎MRI矢状断撮影(B) 第4-5腰椎間にすべり症がみられ、また、同部に脊柱管狭窄を伴っている。

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図3-33.術後の3D-CTの正面像(A)および側面像(B)

図3-31.第4-5腰椎間固定術(TLIF)の術中X線透視像(A~C)および術中顕微鏡写真(D,E) A: insertion & rotationタイプの椎間スペーサーを第4-5腰椎間に挿入している術中X線透視像.B: 同スペーサーを90度回転させ,椎間腔にフィットさせたX線透視像.C: 挿入留置後のX線透視像.D: 自家骨を充填した椎間スペーサー(Capstone ControlTM, Medtronic社).E: 椎間スペーサー挿入後の術中顕微鏡写真。硬膜および右神経根の減圧が達成されている。


図3-32.第4-5腰椎椎弓根スクリュー&ロッド固定術(CD Horizon Solera VoyagerTMシステム,Medtronic社) A: 15mmの皮膚切開をおき,穿刺針を第4腰椎の椎弓根に留置させた.B: 穿刺針の内筒を抜いてKワイヤを椎体内に挿入した.C: 中空のタップを挿入し,ねじ山を作成.D: その後中空の椎弓根スクリューを椎体内に挿入する.E: 同様な操作で対側および第5腰椎椎弓根スクリューを挿入留置する.F: 予め長さを測定したロッドをスクリューと同じ皮膚切開創から挿入する.G: 対側にもロッドを挿入留置し,セットスクリューで締結する.H: 最終のX線透視側面像.I: 最終のX線透視正面像.従来これらの操作は椎弓根スクリューの刺入部を実際に露出展開して行っていたことから,手術創も大きく,患者さんに大きな負担をかけた。


症例3 (40代、女性) 図3-34~3-35

6ヵ月来の右下肢の強いしびれおよび痛みあり。また、立位保持で腰痛増強し、歩行困難も伴うようになった。腰椎単純X線撮影で、L4-5間に強い不安定性が認められた。家事および仕事に大きな支障をきたしていることから、L4-5レベルのTLIFおよび椎弓根スクリュー固定術を計画した。

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図3-34 左:腰椎単純X線撮影で、L4-5椎間レベルに強い不安定性がみられる。自家骨を充填した椎間固定用のcapstone control (Medtronic)

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図3-35 術後3D-CT。L4-5レベルのcapstone controlおよび椎弓根スクリュー。術後右下肢痛は消失した.MRI: L4-5レベルの狭窄は改善している。

症例4 (50代、女性)図3-36~3-39

6ヵ月来の右下肢の強いしびれおよび痛みあり、また、立位保持で腰痛増強し、歩行困難も伴うようになった。腰椎単純X線撮影で、L4-5間に強い不安定性が認められた。家事および仕事に大きな支障をきたしていることから、L4-5レベルのTLIFおよび椎弓根スクリュー固定術を計画した。

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図3-36.手術前の腰椎X線撮影側面像(左)および腰椎CT矢状断撮影(右) 第5腰椎に分離がみられ,第5腰椎-仙椎間にすべり症を伴っている

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図3-39.術後3D-CT.L5-S1レベルのcapstone controlおよび椎弓根スクリュー

 CBTは椎弓根スクリュー挿入法の新しい手法で、2009年Santoniら(Spine J 9:366-373, 2009)によって発表されました。従来からの方法と異なる点は、スクリューの刺入方向とサイズにあります。従来法ではスクリューは外側から内側に向かって挿入し、スクリューは椎弓根から椎体内に広く設置されましたが、CBTでは内側から外側、尾側から頭側に向かって挿入し、スクリューは主に椎弓根部に設置されます。また、より短く、細い径のスクリューが使用されます(図3-40)。引き抜き強度では従来法と遜色ないと報告されてきています。その後、私たちがより低侵襲な方法に改変しました (伊藤康信,平野仁崇,沼澤真一,他: 脳神経外科速報 23(10): 1146-1155, 2013).通常1椎間の手術であれば、正中約4cmの切開で手術が可能です。南東北グループでは2012年5月1日より手技を取り入れています。骨粗鬆症は椎弓根部より椎体部での進行が強く、高齢者でも椎弓根部は比較的骨密度が保たれていますが、CBT法は椎弓根部にスクリューを留置することから、特に高齢者の椎弓根スクリュー固定例には有用であろうと考えられています。私たちも70歳以上の例で使用しています。最長で術後3年が経過していますが、これまでにスクリューおよびスペーサーによるトラブルは発生していません。

図3-40 椎弓根スクリュー挿入の従来法(左)およびCBT法(右).従来法ではスクリューは外側から内側に向かって挿入することから、術野の展開が大きくなるが,CBT法ではスクリューを内側から外側に向かって挿入することから、術野の展開が正中切開で済み、傍脊柱筋への侵襲が少なく、術後の回復が早い。


私たちは2方向からのX線透視下あるいは平成26年9月に完成したハイブリッド手術室で,MISSによるCBT法を実施しています (図3-41, 42)

図3-41 MISS-CBT法による椎弓根スクリュー挿入およびロッド留置までの手技
伊藤康信,平野仁崇,沼澤真一,他7名: 腰椎変性疾患に対するcortical bone trajectoryによる低侵襲的脊椎固定術.脳神経外科速報 23(10): 1146-1155, 2013.


図3-42 70代男性の腰椎変性すべり症例に対するCBT固定の手技
椎弓根スクリューの創外圧迫方法(上5図)および術後の3D-CT.使用器材はCapstone control (Medtronic),Matrix 5.5 reduction screwおよびtransverse connector (DePuy Synthes)。